かわいいあのこ


遠山金太郎とは、愛されるようにできてる、と俺は思う。そう言う仕様で出来てるんや。 存在そのものがそう言う風になってるねん。 金ちゃんは先輩にも、先生にも、目上のもんに敬語なんて一切使わへんし、やりたいことはすぐに実行する。 時と場所なんて関係無い。食べたいと思ったら食べるし、眠たいと思ったら寝るし、テニスしたいと思ったらテニスする。 本能のままに生きてる。でも、誰も怒れへん。 もし金ちゃんと全く同じ事を俺がしたとしたら、確実に怒られるやろう?でも金ちゃんは怒られへん。 しゃあないなって許されてまう。それって愛されてるからやんな。 ほら、見てみぃ。外で体育の授業しとる。先生がさっきから集合かけてるのに、全く聞いてへん。 本人は蜻蛉追いかけまわすのに夢中や。先生もおっきい声出して注意してるけど、顔見てみ。 しゃあないなって顔や。ほんまに怒っとるんとちゃう。 ほんま、金ちゃんは誰にでもかわいがられるようにできとるねんなぁ。


と謙也に話したら、「一番猫かわいがりしとる自分が言うか?」と言われた。
そうかぁ?首を傾げたら、自覚ないんか!と馬鹿にしたみたいな顔をされた。 よし、お前には自習課題のプリントはみせへん。
「なんやねん、事実やんか」
「金ちゃんを特別かわいがっとんのは千歳やろ」
よう肩車とかしてるし。あかん、ちょっとムカついた。 金ちゃん、俺の毒手が怖いとか言うて肩車とかさせてくれへんし。 そう、その毒手や。
好き勝手する金ちゃんを諌めるために存在する俺の毒手は、 純粋な金ちゃんを簡単にビビらすことができる。…だから、金ちゃんは俺のことちょっと苦手やと思っとるに違いない。
「別に、金ちゃんは「毒手」が怖いんであって、白石のことは苦手とか思ってないんちゃうか?」
痴愚れば、そんな風にフォローされた。よし、謙也、プリント見せたろう。
「とにかく、白石は金ちゃんをかわいがりたいんか?」
「目いっぱいな」
言えば呆れた表情をされた。えぇいうるさい。俺は窓の外に眼を向ける。
ようやく体育の授業に参加し始めた金ちゃんは元気に飛び回ってる。 あぁこの席になってよかった。と席替えしてから初めて思った。 自習時間の全部を、俺は金ちゃん観察に費やした。かなり有意義やろ。

授業が全部終わって、放課後になった。部室へ向かうと、外からでもわかるくらいに中が騒がしい。 騒がしいのはいつものことやけど、なんや楽しそうな声に自分もわくわくして、足早に部室へと入っていった。
「どないしたんや?」
テーブルを囲むようにして皆が立ってる。テーブルの上になにかが置いてあって、それを皆で眺めてるみたいや。 なんやろと思ってたら小春が振り向いた。
「金太郎さんが、女の子から差し入れ貰ってきたんよ」
「ちゃんと全員分あるで」
ユウジの付け足した言葉に、俺は本気で驚いた。ええ、マジでか!? かなり驚いた顔してやんやろう、千歳が俺を見て笑ってる。 いや、これはほんま、仕方ないやろう。だってあの金ちゃんやで!?
こう言う事はいままでにも何回かあった。愛らしい金ちゃんには女の子も渡しやすいんやろう、 「これ皆で食べてね」と言われて差し入れを持ってくることがあった。けど、そのことごとくは空箱やった。
「我慢できんかった〜」と言って金ちゃんはそのたびに自分が全部食べてもうたのを白状した。 まぁ金ちゃんやったら仕方ないか。皆もそう言う風に思ってた。 その、金ちゃんが。一個も食べずに持ってきたなんて!
「そんなこともあるんスねぇ。まぁ、腹減ってなかっただけやろうけど」
光の発言は置いといて、俺は金ちゃんの頭をなでなでしたった。 もちろん、毒手じゃないほうの手で。えらいなぁ、金ちゃん。 そう言えば照れたようにへへへって笑う。あぁかわいい。かわいすぎる!どないしたろか!
「ほな、これは部活終わってから食べよか」
銀さんはそう言って広げてあったお菓子の箱をいったん片付け始めた。 今すぐ食べれられへんと知って、金ちゃんが目に見えて落胆する。
「金ちゃん、部活終わるまで我慢できたら、俺の分もあげるで」
「ほんまか!?白石!!」
俺の言葉を聞いた途端、また金ちゃんは元気になってぴょんぴょん飛び跳ねだした。 俺の腕を掴んでほんま?ほんま?と確認してくるのがいちいちかわいい。
ほんまやでー、そう言えば白石スキ!と返ってくる。俺もやっちゅーねん!!
「…やっぱ一番猫かわいがりしとるのお前やわ」
どっかからそんな言葉が聞こえた気もしたけど、気にせんことにした。