アイノタメニ!




「ユウジ、マフラーの編み方教えてくれ」
と、頭を下げるのは我らが元部長の白石蔵ノ介。 いきなりの頼みごとに、俺はおもいっきりでかい声で
「はぁ!?」
と言うてもた。おかげでめっちゃ注目されてまうし。 いや、いやいや。そんなんどうでもえぇねん。 今は白石や。この、男や。
なんや俺に頼みごとがあるって言うてわざわざうちのクラスにまで来るから、 教科書貸してくれとか言うと思ったら、こんなことか! 俺はちょっと考えて、それから白石の肩に手を置いた。
「白石、もうちょいしたらバレンタインやから、それまで我慢せぇや。 お前のことやから、マフラーくれる女の子も一人や二人はおるんやろ?」
事実、俺はこいつがマフラーやらなんやらを貰ってるのを見たことがある。
俺は絶対に本命、まぁ小春からしか貰えへんけどな。 て言うか、そんなにマフラーが欲しいんやったら買いに行けばえぇねん。
「自分用に編むんちゃうわ!」
白石がむっとした顔をしたから、俺はあれ?と考える。なんや自分用やなかったんかいな。
て言うか、それなら誰用やねん。 俺の疑問は思いっきり顔に出てたんやろう、白石が「あのな」と説明を始めた。
「ユウジ、昨日の金ちゃん見たか?」
「見たもなにも…金太郎さんのことは殆ど毎日見てるやんけ」
学年は違うけど、学校の中走り回ってる金太郎さんはよう見かける。 部活は引退したけど、正直腕が鈍りそうやから毎日のように顔は出してる。 白石の言い方は回りくどくて、俺はちょっとイラっとした。
「そうやなくて…。金ちゃんの格好や!1月にもなるのに、まだあのランニングやねんで!? 上には長袖のジャージ着てるけど、ちょっと羽織ってるだけやし!どう考えても寒そうやろ!!」
そう言われたら、確かにそうやった。このクソ寒い中、金太郎さんは未だにあの豹柄のランニングを着てる。 最近になってやっとジャージの上くらい着るようになったけど、俺やったらまず考えられへん格好や。
それでも金太郎さんは元気に走り回ってるし、寒いなんて絶対に言えへん。 小学校に一人くらいおる、オールシーズン半ズボンなやつ。 まさに金太郎さんはそれやと思ってた。だから、平気やろうと思ってた。
「金太郎さんは平気なんちゃうん?」
「ちゃう。昨日、一緒に帰った時にくしゃみしてた」
いつの間に一緒に帰っててん。いやもうそんなことどうでもいいけど。
「せやから、俺が金ちゃんにマフラー編んだろう思ってな。えぇ考えやろ?」
「いや…それやったら買いに行ったほうが早いで?」
白石が一刻も早く金太郎さんを暖めてやりたいとか思ってるなら、それが一番やろ。 手編みとかやったことないみたいやし、絶対時間かかる。
俺は何も間違ったこと言ってないのに、白石は「はぁ?」って顔した。
「ユウジ、お前は小春にやるマフラーはそこらへんで買ったやつでえぇと思ってるんか!?」
そう言われて、ハっとする。手作りの醍醐味、それは一緒に注がれた愛情やないか! 白石は金ちゃんを愛してるからこそ、がんばって手作りのマフラーをやりたいと思ってるんや。 その気持ちを俺にはバカにすることなんてできへん。俺かて、小春にはその辺で買ったもんやなく、 俺の愛情が込められた手作りのものをあげたい!
「わかった…お前の気持ちはわかったで、白石!俺も小春のためにマフラー編むから、一緒にがんばろうや!」
「ユウジ…!!」
白石と固く、握手を交わす。例え俺の後ろで小春が 「見てこのマフラー!一目ぼれして買ってもうてん。今年はこれ以外は使わへんで〜!」と言っていようとも!
それから白石は休憩時間になると、俺のクラスにくるようになった。 はじめは二人で教室の隅っこでやってたのに、いつの間にやら他の女子まで巻き込んで (て言うかあいつらが教えてくれって言ってきたんやけど)、ちょっとした編み物教室みたいになってた。
白石の編み物の腕は中々のものやった。さすがバイブルと言われるだけあって、 飲み込みも早いし、お手本どおりにきちんとできる。しかも短時間でや。 その器用さは羨ましい。けど、それよりも金太郎さんのためにやりたいって気持ちがあったからやねんやろうなぁ、 と俺はすっかり感心してもうた。いやいや、俺かて小春への愛は誰にも負けへんつもりやけどな!!

「結構できてきたやろ?」
そう言って白石が、もう十分すぎるほどの長さのマフラーを俺に見せた。
よぉできてるやん。そう言ってやりたい気持ちはいっぱいやったけど、いやいやおかしい。 「できてきたやろ?」て事は、まだここは到達点やなくて、通過点やってことや。
「白石、それ以上長くしてどないすんねん!金太郎さんの体のサイズに合ってへんやないか!」
「いや、これ二人で巻こうと思って」
「合い合いマフラー!?身長あわんやんけ!」
どう考えてもバランスが悪い!て言うか、どっちかの首が絞まってまう! と俺が反対しても、白石は頑なに「いやや!俺はやるんや!」とか言ってきけへん。
仕舞いには「俺の首が絞まるくらい、なんでもあらへん!」とか言い出した。それも、愛、なんか…?
「そやけど、まぁ首がしまるくらいならえぇかもしらんけど…。 蔵リン、その状態でもし金太郎さんが走り出したら、首折れてまうんとちゃう?」
「……え、」

小春のナイスな発言によって、白石はそれ以上マフラーを長くするのを諦めてくれた。さすがやで、小春!


そんなわけで、白石は無事に普通の長さになったマフラーをさっそく金太郎さんにプレゼントした。 そのときの金太郎さんの嬉しそうな顔には、俺らみんな癒されたもんやで。 まぁ、その直後の白石の物凄い幸せそうな顔は俺らの心にトラウマレベルで刻まれたんやけど。
なんて言うか、人間ってあんな幸せそうな顔できるねんなぁって言うか…。
ちなみに、俺もそのとき便乗して小春に手編みのマフラーを渡したんやけど、 なんと小春はしゃあないなぁって言って受け取ってくれた!!
しかもその場で使ってくれて、俺は死んでもえぇってくらいに嬉しかったんやけど、 財前から「その顔はトラウマもんっスわ、先輩」って言われた。
なんでやろう。