ゆるゆる気付く


アキラって、伊武君のことばっかりだね。

そう言って彼女は苦笑を浮かべて俺に別れを告げた。
こうなるのは何も初めてじゃない。今年に入ってからは三度目くらいだ。
彼女が出来ても長続きしない、なんて言ったらまるで俺が浮気性のように聞こえるがそうではなくて、いっつも俺は女の子に最終的にフラれてしまうのだ。
しかも大概の理由は「伊武君」が原因。
深司が何か俺と彼女の仲を邪魔しているとか言うわけではない。
それどころか深司は何も悪くはないのだ。 問題は俺が、やたらと深司の話ばかりすると言うところ…らしい。 最初のうちは「アキラって伊武君と本当に仲がいいんだね」と言って笑っていた彼女が、だんだんと表情を曇らせて「また伊武君?」と呆れたように呟くまでにそう時間はかからない。
俺だって彼女が深司の話を出して面白くなさそうにするならば極力出さないようにはする。の、だが。 無意識に深司の話を俺はしているらしい。
と言われても俺にはぜんぜんわからないのだ。そんなに深司の名前をしょっちゅう口にしている自覚も無い。
なのでこれは誰かに相談したほうがいいと思った俺は、とりあえず誰に言えばいいだろうと考え、年上だし頼りになるし色々親身になってくれそうだということで橘さんに電話することにした。
そう言えば橘さんと話すのも久しぶりだった事を思い出して、最初は久しぶりに聞く声に懐かしさと嬉しさを感じてお互いの近況のことを話し合った。 それから互いの近況報告も一段落したので、俺はいよいよ橘さんに相談したいことがあると切り出した。橘さんは少し驚いたようだったが、すぐに俺でよければ相談に乗るぞと言ってくれて、やっぱりこういう面倒見のいいところは俺達の知る橘さんなのだと思った。
「俺、そんなに深司の話ばっかしてますかね」
「……いきなり、どうしたんだ」
「いえ、ちょっと、彼女にそう言われて…」
まさかそれが原因でふられたとは言い辛く、その辺は言わないでおいた。 橘さんはしばらく考え込んでいるようだったが、やがて「あのな」と口を開く。 「お前、いまこの話になるまでに、ずっと深司の話ばかりしてたぞ?」


俺は深司が好きなのだろうか。